風俗のお仕事に就いて長年が経過するが、この業界に入る前、特別に風俗で遊ぶのが好きだったのか?という事であれば、人並み程度の利用頻度だったと思う。若かったから飲み仲間同士で「今から行こうかぁ〜」みたいなノリで利用していた。大体1月に1回程度だったと思う。
若かった頃から(二十歳前後)「恋人は面倒だからいらなくて、そういう欲求が生じた時には風俗を利用すればよい」と、若いのに恋愛に対して醒めていた。
こうなってしまったのには理由があって、自分が二十歳前後だったころ、お誘いを受ける女性というのが何故か、大抵15歳から20歳も年上の女性ばかりだったからである。
年上といっても年齢が近い年上なら良いのだが、その相手が二十歳前後の若者から見たら、明らかにオバサンばかりだったのだ。
寿司職人だったからカウンターの中に入っていた。誘ってくれる女性は皆30代後半から40代の女性で、しかもほとんど全員太っていた。太った年上のオバサンのお客様が誘ってくれたわけである。
寿司職人の頃は仕事が大好きで、店の社長について築地市場の仕入れについて行ったり、休みの日にも店に顔を出して板場を使わせてもらって魚をおろす練習をしたりしていた。
そんな努力が実って、まだハタチそこそこの年齢でカウンターの中に入れてもらっていた。
40代、30代後半の板前の中に二十歳そこそこの人間が立って仕事をしていれば、女性のお客に色々と話しかけられる。若いからまだ威厳もなくて話しかけやすいということもあったと思う。
でも寿司屋のカウンターに座る女性と言えば、若くて綺麗な女性ならほぼ100%お金を持っているかなり年上の彼氏と来ている女性か、パトロンと来ている水商売の女性である。
何故なら寿司屋のカウンターでお好みで食事をする場合、酒台と合わせれば一人で大体1万円前後はかかる。
1回の酒や食事に1万円前後かけられる若い女性というのは、まず滅多にいない。
それ以前に若い女性が一人で寿司屋のカウンターに来るケースなど、相当レアなケースだ。ほぼ皆無に近いと思ってよい。
だから女性で一人で寿司屋のカウンターに座り、お酒を飲み食事をする様な女性であれば、年齢は30代半ば以上で、何かしら自分で商売をやっている女性が多い。
必然的に女社長さん、女性経営者さん・・・あるいは会社員であれば女性でも相当上のポジションの方が多かった。
そしてそういう女性は普段、男勝りに仕事をバリバリこなしている方が多い。激務だからそれなりにストレスも溜まる。そのストレスを寿司屋のカウンターに一人で座り、美味しいお酒と食事をとることで発散させているのである。
そして普段から仕事第一!でバリバリ仕事をしている女性だから、お化粧や来ている洋服などは金がかかっているなぁ〜という方も多いが、正直スタイルはお酒をたくさん飲み、美味しい食事をふんだんに取るわけだから、ポッチャリしている方が多かった。
いや、もっと正直に言うと、若かった自分から見たら「ちょっと太っているなぁ」という方が多かったのだ。
正直いくら誘われたって、若かった自分からしたら恋愛対象として見ることなど出来なかった。
その寿司屋で働いている時、ホールをやってくれているオバサンがいた。年の頃は40代半ばで太っていた。時々近所の美味しい甘味屋さんの大福やお団子を差し入れしてくれていた。
自分は甘いものが大好きで、おまけに和菓子が大好きだから、そのオバサンの差し入れを喜んで食べていた。
するとある日そのオバサンが「この甘味屋さん、2階にイートインもあるわよ。一緒に行く?」と行ってくれたので、奢ってくれるということでついて行った。
昼のランチタイムが終わった後の休憩時間、ホールのおばさんは私服で、自分は寿司職人の白衣に下駄をつっかけて、店の近くのその甘味屋さんまで歩いて行った。途中、ホールのオバサンの友達である近所の八百屋のオバサンに「あら、今日は若い子とデートなの?良いわねぇ〜」と冷やかされた。
そしてそれがまだ二十歳そこそこだった自分にとっては、そのホールのオバサンには悪いのだが、なんだか嫌だった。「なんだ、世間にはそうやって見られるのか?親子連れとか、そんな風に見てくれないのかな??」と思ってしまったのだ。←若かったので、そんな事にすら過敏だったのである。
甘味屋さんの2階で浮かない気持ちでアンミツを食べた。やっぱりオバサンでも女なんだ・・・とその時思った。相手がなんだか普段以上にすごくご機嫌だったからである。
今はバラエティーに引っ張りだこの、あるお笑い芸人2人組の女マネージャーに、カラオケボックスで無理やりキスされそうになったこともあった。その女性マネージャーはその当時働いていた店の超上客だったのである。
とにかく芸能事務所が儲かっているから、会社の経費として寿司屋で落とす金も大きい。たしかに良い人だったし、面白い人だったし、自分を贔屓にしてくれていたのでありがたいお客様だったのだが、とても太っていたし、13,4歳年上だったはずだ。
それに自分を贔屓にしてくれていたその女性マネージャーの事をとやかく言う事に関しては、本当に気が引けてしまうのだが、自分があまりにも乗り気になれなかったのは、その女性が漫画「工業哀歌バレーボーイズ」に出てくるキャラクターの虎子にソックリだったからである。(以下そのマネージャーを虎子と称します)
ある日、店の経営者から「仕事の後、○○(先輩職人)と●●さん(虎子)とあと△△さんとお前の4人で飲みに行け。その後カラオケ付き合ってやってくれ」と言われた。ほぼ業務命令みたいな口調だった。
お店の後、お客様の付き合って飲みに行くこと自体は時々あったので、自分は何の疑いもせず、4人で飲みに行き、その当時は嫌いだったカラオケに行った。
カラオケボックスで虎子は酔ったふりをして、やたらと自分の身体にベタベタとボディタッチしてきて、閉口した。そして抱きついてきてキスされそうになった。
まさかの展開に焦った。焦りつつ先輩の顔を見たら、笑っているだけで何の手助けもなかった。その時の事はハッキリとは思い出したくない(苦笑)自分は「いや、ちょっと(苦笑)待ってくださいよ!虎子さん酔っ払っていますよね!止めてくださいよ」と断ると、虎子は「私の事嫌なんでしょう!!」と、ソファに崩れて嘘泣きをするのだった。ウンザリしながら「いや、そんな事ないですけど・・・」と言うと、すごい勢いで起き上がってきて、また抱きついて無理やりキスをしようとしてくる。酒臭くてデカい顔がすぐ目の前に迫ってきて、ヒグマに襲われているみたいな錯覚をおこしそうだった。記憶はあやふやだけれど、何とかそのカラオケボックスから逃げ出した。
しばらくしてから後日、別の先輩職人にその話をしたら、「職人は上客の為には、時には男芸者みたいな事もするもんだ」と言われた。
虎子はその日以降も、何事も無かったかの様に飲みに来てくれたので良かった。まぁ何事も無かったとは思えないけれど、やっぱりそれなりにガッカリさせてしまったかもしれないな・・・と思ったけれど、だからといって、相手のいいなりになる事だけは自分は出来なかった。
海外から雑貨輸入の仕事をしている女社長さんには、バツイチの妹と結婚してくれ・・・と言われた。周りの人達から、居酒屋も数件経営していて、仕事の上ではかなり厳しくてコワイ人だと聞かされていた。
「バツイチの妹と云々・・・」のその話が出た翌週には、驚いた事にその妹さんと一人娘さんを寿司屋のカウンターに連れてきて、3人で食事をするようになっていた。そして姪であるその妹さんの娘さんに「カウンターの中の3人の板前さんの中で、どの人が一番好き?」などと聞き出す始末だった。また裏に呼ばれて「妹は気に入っているから、いつ妹とデートしてくれるの?」と聞かれ、なんと答えて良いのか分からず本当に困った。
こうして二十歳そこそこだった自分の頭の中に、年上の女性=コワイ という図式が完璧に出来上がってしまった。
そして年齢が近い女性と付き合ってみると、これはこれでワガママだし、相手が怒った時のヒステリックな反応に精神的にやられてしまった。
結局行き着いた結論は「風俗店を利用する事」だった。当時若く、そして上に書いたような目にあってきた自分にとって、風俗店で遊ぶことは何よりのストレス解消と息抜きと生理的欲求の解消になった。
それからしばらくしてこちらの業界に入る事になった。そんな経緯で今現在に至る。だから、当時自分が風俗によって恩恵に預かった経験を、仕事をしていく上で忘れていはいけないな・・・と思う。今後もこの仕事に本腰を入れて、お客様の為に充実した息抜きや楽しみになるように頑張ろうと思う。